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要約筆記技術11 読み手の常識・知識を利用した省略の技術

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要約筆記技術11 読み手の常識・知識を利用した省略の技術

以前、要約筆記をデータ圧縮になぞらえて考えるという話をしました。
要約筆記の過程も一種の非可逆圧縮であり、その圧縮にあたってはJPEGなどののデータ圧縮と同様、人の感覚特性を上手く利用し、できるだけ元の情報の性質を損なわない形で圧縮率を上げる処理をする。
これは、手書要約筆記、パソコン要約筆記、点訳要約筆記の別に関わらず当てはまる事。
その中で、考慮要素が圧倒的に多いのは手書なので、当面は手書を中心に話を進めます。

「人の感覚特性を利用する」というのが少し分かりにくい気がしますので、まずはそこから。
人の頭は、なかなか優秀です。
多少の情報の欠落、不足、誤りなどは、勝手に頭で補って情報を読み取ることができます。
頭を捻って推察する場合もあるでしょうが、考えるという意識なしに、それを行うことも少なくありません。
これは別に情報保障だとか要約筆記だとか関係なく、普段の会話で普通に見られること。
要約筆記では、人のそういう能力を意識的に多分に活用します。
少し具体的に説明してみます。

1.常識・知識で補う
普段の会話で、人の頭が勝手に情報を補っているケースを考えます。
たとえば、秋口のこんな会話。(北陸地方)
   「寒くなってきましたね」
   「今年は降りますかねえ」
   「去年より多いみたいですよ」
   「あんまり多いと困りますねえ」
   「ほんと、うちは年寄りばっかりなもんで」

この時点で通じないと言われると下の説明は意味がなくなるんですが、大丈夫かな。
まあ、通じているとします。
この会話は、以下のような常識(知識)を背景にして成り立っています。
   秋の次は冬がくる。
   冬に降るものといえば雪。
   雪がたくさん降ったら雪かきが必要。
   雪かきは重労働。
   年寄りにとって雪かきは特に大変。

別に意識はしていないかもしれませんが、相手の常識・知識・その地方での共通認識などを前提にして、省略の技を使った会話になっています。
赤道直下で生まれ育った人と話すなら、この会話は足りない情報だらけでしょう。
もし、敢えて不充分な要素を補えば、上の会話はこうなります。(加筆部分、赤字)
   「寒くなってきましたね。もうそろそろ冬ですね。」
   「今年の冬雪がたくさん降りますかねえ」
   「去年より雪の量は多いみたいですよ」
   「あんまり降雪量が多いと困りますねえ」
   「ほんと、うちは年寄りばっかりなもんで、雪かきをするのは大変です。」

上手い例文ではないですが、イメージできますでしょうか。
要約筆記では、言うなれば加筆後の会話を聞いて加筆前の会話文を書くような作業をしていきます。
普段無意識にしているような省略の技を、意識的に、しかもギリギリのラインまで使います。
したがって、元々が最初の会話のように省略された発話だと、要約筆記の難易度は上がる。
逆に、回りくどい喋りなどは要約筆記しやすい発話と言えます。

違う形で、知識・常識を利用する場合もあります。
分かりやすい例の1つが、「徳川家康」と聞いて「家康」と書くパターン。
単語置換技術の中の1系統で、要約筆記で多用されるテクニックです。
日本人の大人であれば徳川家康の名前は知っているものと考え、「家康」と書けば徳川家康のことだと特定できると判断します。
家康=徳川家康 という関係なので、この場合は可逆圧縮に近い処理ですが、元の発話を特定できるわけではないので、やはり非可逆圧縮。
とはいえ、情報の低減度合が小さい処理であり、使える場面では積極的に使います。
ただし、情報を何らか減らした時には、それなりの配慮が必要です。
徳川を書いたなら家康を平仮名で書いても構いませんが、徳川を抜いたならば、家康の仮名書きは微妙。
単純にどこかの箇所を削って成り立つというケースは稀で、大抵、1つの処理は他の処理にも影響し、それらを総合的に判断することが必要になります。
また、徳川家康・織田信長クラスなら問題ないとしても、どこまでのラインを常識とするかは、結構難しい問題です。
それは、その単語が初出か既出かということにも大きく依存しますし、その他の発話内容などによっても判断は違ってきます。
ギリギリアウトかなと思う場合でも、状況によっては一端省略で処理をし、後から情報を補うという手もありますので、一概に「この単語はこの処理でOK」とは、なかなか言えません。

例として歴史人物を出したのは、ちょっとまずかったかもしれませんね。
実際には、こういうお勉強的なこと以外で、常識・知識で補う例が多いです。
人の思考力や常識で情報を補える部分は情報を減らす。
さらに、読み手にとって、変化が重要でない部分の情報を減らす。
そういう処理を加えることで、2割の筆記量で8割内容を抑えるということが可能になります。(一応)

もう少し例示を続けます。


Last Update 2010-06-03 (木) 11:50:53

本文終了

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