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要約筆記技術12 文字数と筆記時間と情報量の区別

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要約筆記技術12 文字数と筆記時間と情報量の区別

今まで何度か使ってきました、「筆記時間」という言葉について、少し補足します。

「要約筆記技術5 手書要約筆記の技術分類」の中で、手書要約筆記の技術を表記技術、変換技術、要約技術の3つに分類しました。
この中でも、処理の上で優先されるべき技術が「表記技術」です。
表記技術とは、端的に言えば、同じ文言を筆記時間の少ない表記に変換する技術。
詳説は後日にしますが、表記の工夫による処理は情報低減が少なく、可逆的に近い処理であるため、積極的に用いて良いと判断されます。(厳密には可逆ではない)
その表記技術の中の1つが、漢字と仮名の使い分けによる筆記時間の短縮です。
漢字と平仮名・カタカナを上手く使い分けることで、同じ内容を短時間で表出する。
注意してほしいのは、「筆記時間の短縮」であって「文字数の短縮」ではないということ。
ここ、要約筆記で混同されやすいところです。

文字数・筆記時間・情報量の区別を、例文を通して見ていきます。
「震度6強の地震が石川県の能登地方でありました。」
という発話を想定します。
これは実際にテレビで放送された内容なのですが、発話時間は4秒弱でした。
この内容を上記の表記のままに筆記すると、個人差もありますが25秒程度かかります。
OHPでの筆記を想定しての数字です。
ノートテイク用の文字であれば20秒ちょいで書けるかな、というぐらいの分量。
いずれにせよ、そのまま書いたのでは、発話時間とのギャップが大きすぎます。
発話と発話の間の時間を考慮したとしても、発話時間プラス1秒の“5秒程度”が、この内容を書くのに順当に与えられた時間です。
もちろん、この文章だけに注目すれば、書ききること自体は不可能ではありません。
しかしその場合、それを書いた代償として、その次に続く約20秒分の発話内容(およそ100文字分)を落とすことになります。(書くための時間が無くなる)
よって、どう書いたら内容を出来るだけ落とさずに短時間で書けるかを考えていきます。

ここで下の2つの文章を見てください。
   1. 震度6強の地震があった。(12文字)
   2. しんど6強の じしんが、石川・のと地方であった。(23文字)

文字数が少ないのは1です。
情報の要素が多いのは2です。
筆記時間は ほぼ同じです。(12~13秒。2のほうが少し速い。)

2は、元の発話の要素を殆ど削っていませんが、筆記時間は半分になっています。
1も、筆記時間は半分になっていますが、場所の情報が落ちています。
読みやすいことを言えば、1でしょう。
かといって2も読めないわけではない。
これらを総合的に考えて、どちらの筆記がより情報を保障しているかということ。
如何でしょうか。
上の2文、他にも技術的に解説すべき点が色々あるので、筆記時間と要素だけの比較ということではないのですが、それはまたの機会に述べるとして、大雑把に言えば、これが表記技術の考え方です。

上から分かるように、情報量は文字数に比例しません。
筆記時間も文字数に比例しません。
そして、筆記時間は、漢字の使い方に大きく依存します。
従って、文字種の区別なく文字数を扱って筆記時間の換算をすることは意味がありません。
文字数を元に計算する要約率(圧縮率)の値が、一定の目安以上の意味を持たないのも、ここに理由があります。

上の例では、目標時間までの圧縮を示しませんでした。
この先の圧縮は、与えられた1文だけでなく、前後の流れ、既出内容の如何なども併せて考慮し判断することになります。
今は手書の例を紹介しましたが、PC要約筆記であっても考え方は類似です。
パソコンの場合は、筆記時間という感覚とは少し違うかもしれませんが、入力・変換を合わせた「文字の表出時間」を短縮する方向に工夫するという意味では、考え方は同じようなもの。
手書では、文字の画数と筆記時間との相関関係が推測されますが、パソコンの場合は、漢字変換の手間が、筆記時間(表出時間)に大きく影響することになります。
従って、変換をスムーズに行うための入力・タイミング(どういう文字列を入力して、どのタイミングでどう変換させると正確に速く変換できるか)を操る技術が必要になってきますし、予想される表出時間によっては、単語置換、仮名表記、といった処理の選択も当然必要になってくるでしょう。

さっきも少し言いましたが、手書・パソコンとも、筆記時間の選択の際には、判読性も含めた他の要素との総合判断が必要なので、筆記時間の比較だけで処理を決めることはできません。
しかしながら、筆記時間(表出時間)というのが、要約筆記の判断の上で大きな判断材料となることは確かです。

なお、点訳要約筆記の場合は、文字数と入力時間とが限りなく比例関係にあるので、筆記時間の議論はあまり該当しません。


Last Update 2010-06-03 (木) 11:52:08

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