北陸“勝手に”ノーベル賞:教育・福祉賞 日常に幸せ感じる社会を /北陸
北陸“勝手に”ノーベル賞:教育・福祉賞 日常に幸せ感じる社会を /北陸
障害者や子どもたちが日常でどれだけ幸せを感じられるか。それは健全な社会のバロメーターでもある。今回紹介する「教育・福祉賞」受賞者に、私たちも見習うべき点が多々あるはずだ。
◆いのちにやさしいまちづくりネットワーク代表・榊原千秋さん(47)=石川県小松市
◇「やりたいことを応援」
石川県小松市で96年、ALS(筋萎縮(いしゅく)性側索硬化症)患者の故西尾健弥さんと出会った。「今、一番したいことは何ですか」。西尾さんは妻との思い出が詰まった能登に行きたいと答えた。寝たきりで人工呼吸器を付けても自分らしく生きたいと願う西尾さんのために半年かけて準備し、1泊の旅行を実現。「やりたいことを応援しただけ。特別なことではないですよ」
本職は保健師。08年に複数のボランティア団体に呼びかけ「考える会」を設立。その後、名称を現在のものにした。考えるだけではだめだと思ったからだ。目指すのは「誰もが希望を持てるまち」。地域の人の話を記録に残す聞き書き長屋や、居場所づくりに力を注ぐ。
背景には、末期がんの母親をみとった時の後悔や、交通事故で命を落としかけた体験がある。「生老病死は誰にでも平等に訪れる。医療従事者と患者の垣根を越えて同じ風景を見ていきたい」【澤本麻里子】
◆「盲ろう者友の会」を設立、九曜弘次郎さん(35)=富山市
◇支援態勢の整備に意欲
昨年6月、視覚と聴覚に障害を持つ「盲ろう者」を支える「富山盲ろう者友の会」が発足。設立に向け、中心となって活動した。
自身も生まれつき目が見えず、10年ほど前から聴力も落ち始めた。07年、県聴覚障害者センターでの学習会に参加。盲ろう者の実態や、支援態勢が不十分な現実を初めて知った。「まずは仲間を募り、障害への理解を広めよう」と会設立を準備した。
設立後は、支援者と県内全15市町村の障害福祉担当者を訪問。盲ろう者について知らない自治体も多かったが、4市町が計6人を把握していることも確認できた。「盲ろう者を知ってもらうきっかけがつくれた。協力者も徐々に増えてきた」と手応えを感じている。
現在、参加する盲ろう者は2人だが「通訳派遣制度の充実に向け、県にも働きかけていきたい」と意欲的だ。【蒔田備憲】
◆福井の子題材に本出版、フリーライター・太田あやさん(33)=東京都在住
◇「親が子を信頼している」
「ありがとうございます。光栄です」。受賞を伝えられ、いたずらっぽく笑った。
福井の子どもたちの成績が良い秘密を探る新刊本「ネコの目で見守る子育て」(小学館)を昨秋出版。半年間福井に通い、「子どもたちが自ら勉強する癖がついている家庭は親子関係が良い。親が子どもを信頼する、というところからスタートしているのが印象的だった」と話す。9月には長男を出産し、「親の視点でものを見る瞬間があった」と自身の変化も感じた1年だった。
一方で「もう少し(取材対象に)深く入りたかったかな」と悔いも。「ちゃんと取材して、人の声を聴いて形にしていく。それを忘れず、今年も1個1個形にしていきたい」。新春の決意が口調にこもった。【安藤大介】
毎日新聞 2010年1月4日 地方版
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