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要約筆記実践5 「おじいさん、おばあさん」をどう書くか

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要約筆記実践5 「おじいさん、おばあさん」をどう書くか

引き続き、昔話の筆記について。
「むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。ある日、おじいさんは…」
という文章を見てきました。
今までのことをまとめると、「むかしむかし、あるところに…」と聞いて書くのは、“むかし”もしくは“昔々”のみ。
こう書いちゃうと、色々な意味で、それでいいのか?という気もしますね。
ただ、“むかし”を書き終わった段階で一瞬の余裕があったとしても、その勢いで“むかしむかし”と書いてしまうと、取り返しにくい遅れになってしまう可能性が高い。
むかし1個分の約2秒は、要約筆記にとっては かなり大きな時間です。
もちろん、読み方によります。
「むか―――し、むかし…」という感じなら、多分“むかーし、むかし”まで書けますし、私も書くと思います。
その場合でもやはり「あるところに」を拾うのは難しいと思いますが。
どういう状況ならどこまで書くというのは体感的なものだったりしますが、その判断には練習を含めた経験が随分必要だろうと思います。
書けると思って書き出したけど、次の入りが予想外だったときに、即座に消すか進むかの判断が出来るかどうかも、大事なスキルです。

で、「おじいさん、おばあさんが住んでいました」の処理の話。
ここの処理は、勝負の分かれ目かもしれません。
「おじいさん、おばあさん」は読めば1.5~2秒、書けば6~7秒。
とても、まともに書くわけにはいきません。
単発なら書けなくもないですが、その後も度々出てくる単語だけに、そのまま書けば他が破綻しかねない。

一つ無難なのは「じいさん、ばあさん」です。
ニュアンスは変わる気もしますが、最も誤解を生みにくい変換。
その後に出てくる、おじいさん・おばあさんに対する会話文を直接話法で書いても齟齬が出にくいというのも良い点。
接頭語を省くだけですが、これで1秒ちょいの筆記時間短縮。
1秒短縮したところで5秒程度はかかりますので、使えない場面もでてきます。
で、どうするか。
ここからは、メリット・デメリットの攻防になります。
「おじい・おばあ」は手です。
4秒内に収まり、後に直接話法を使った際の齟齬も少ない。
問題は意味も含めた易判読性ですが、ギリギリ誤解がない範囲と言えましょうか。
更に時間がなければ「じじ・ばば」「じい・ばあ」などを候補に入れることになります。
「じじい、ばばあ」はダメ。
印象の大きく違う情報(誤った情報)を加えることにもなるのでNG。
「じいじ、ばあば」は一応アリ。
これらの筆記時間・易判読性・後の直接話法の会話文との違和感等々を考慮し、なるべくデメリットの出にくい形で表記を選択していきます。
まあ、最後の手段という感じもしますが、そういう非常手段的な選択肢幅を持っているかどうかは大きいかも。

今まで何度も言っていることですが、表記選択の際には、単純な単語同士の比較ではなく、それによって生まれる効果全体を評価することが大事です。
例えば、「おじいさん」と「じい」を比較して、「おじいさんのほうが分かりやすいね」とか言っても仕方ない。
「おじいさん・おばあさん」を「じい・ばあ」に変換すると、約3秒の筆記時間短縮が生まれる。
読み上げ3~4分の『ももたろう』の中に、「おじいさん・おばあさん」が仮に10回出てくれば、その変換は単純計算で30秒の余剰タイムを生むわけです。
それは、およそ仮名50文字分。
「おじいさん」を「じい」にするだけで、それだけの情報を他に入れられるとも言えますし、あくまでも「おじいさん」と表記すれば、それだけの情報が落ちているとも言える。
まあ、実際はそこまで単純な計算ではないのですが、そういうことを考えた上で表記を決めるという考え方は必要です。
そこを意識して書くだけで、10分で仮名100文字分ぐらいの差は余裕で生まれます。
表記だけで。
1文字2文字、1秒2秒の節約の積み重ね、あなどれません。
注意すべきは、これも何度も言っていますが、注目すべきは「文字数」ではなく「筆記時間」であるということ。
例えば、「おじいさん・おばあさん」を「おじじ・おばば」にすると、文字数は減りますが、実際は殆ど筆記時間は変わりません。
「ば」が結構時間を食うせいなのですが、こうなると、書き換えた意味が全然なくなってしまう。
まあ長くなりましたが、表記検討の効果は大きいですよ、という話でした。

参考までに私個人の場合、短縮表記は「じいさん・ばあさん」ぐらいしか使ったことないです。
その分、主語を使わずに伝わる文章の構成を選択することが多いです。
短い表現は使ってみたいと思う反面、デメリットが気になって使うのに躊躇した…というのもありますし、そこまで時間的に追い込まれたことが無いというのもあります。
でも、使えばいいと思います、個人的には。
少なくとも、何の策もなくダダ遅れになるより はるかに良い。

最後に補足。
おじいさん・おばあさん→ 老夫婦、祖父母
という変換は、要約筆記では常套の処理なのですが、今回のケースではデメリットの割に筆記時間短縮のメリットが少ない等の理由で、候補に挙げませんでした。


Last Update 2010-06-03 (木) 11:58:24

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