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要約筆記実践8 「ももたろう」をどう書くか②

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要約筆記実践8 「ももたろう」をどう書くか②

前回の続きです。
「ももたろう」の表記。
ちょっと飽きてきたので、サクサクと進みたく。

「桃太郎は5秒、ももたろう・モモタロウ2.5~3秒。平仮名より片仮名のほうが少し遅い。」
ということでした。
どこから考えてもいいのですが、平仮名と片仮名の比較から。
筆記時間は僅かながら平仮名に軍配。
平仮名と片仮名だったら、片仮名表記のほうが筆記時間短いことが圧倒的に多いんですが、今回は逆。
これ、文字の画数との関連性が高いです。

で、次に易判読性。
ここで平仮名のほうが読みやすければ、文句無く 平仮名>片仮名 ということで、漢字と平仮名の比較に移れるんですが、そうそう単純でもなく。
以下、思考の曲折。
単独で見れば、平仮名の読みやすさに分があります。
片仮名のみの文字列は長くなると読みにくい上、漢字や漢字の一部との同形が多く、判読性は一般に下がります。
しかし逆に、片仮名表記では、その文字列が一続きの単語であることを示す「カタマリ効果」を生みます。
これは、固有名詞や専門語の表記の際にも有効な技術です。
桃太郎は有名人なので、平仮名表記でも誤解はないとの予想は立ちますが、中に他の一般名詞を含む語であること、文頭文字が「も」であるために、前後のつながりによっては単語の切れ目を読み違える危険があることなどを考慮すると、平仮名表記の使用には慎重さが必要だと言えます。
また、「太郎」の平仮名表記は、付属語「だろう」(断定の助動詞「だ」の未然形+推量の助動詞「う」の未然形)と、外見が似ています。
全く意味の違う語なので、書く側は、紛らわしい見た目であることにすら気づかなかったりするのですが、思いもかけず違う文意が成り立ってしまったりすることは実際結構あります。
よって、もし平仮名を使う場合には、表記の工夫は必須です。
単語途中での改行はNG。
前後の文字の並びによっては、しっかりと分かち書きします。
手書であれば、濁点を明確に書くようにします。
一般の文書の筆記ルールで書いたんでは、あまり良くないんですね。
パッと見の掴みやすさ、もっと言うなら、書いてる途中の見え方まで計算できると、要約筆記の易判読性は上がります。

ということで、平仮名と片仮名は一長一短…というところで漢字との比較。
易判読性だけで言えば、個人的な好みも入りますが、漢字が一番読みやすいと思います。
が、その読みやすさのために1単語あたり2秒強を余分に費やすかという問題。
結論とすれば、否でしょう。
1回しか出てこない単語ならともかく、『ももたろう』のお話で「ももたろう」は頻出語。
3分程の話に5~6回出てきたとして、全て漢字表記を用いれば12秒以上を余計に使う計算。
12秒は、仮名20文字程度の筆記時間に相当します。
1文~2文を落としてまで桃太郎を漢字で書くメリットがあるかどうか。
実際には「ももたろう」という語はもっと出現しますし、漢字表記を使うとかなり苦しくなると思います。(もちろん、出てきた回数分書く必要はありませんが)
「最初に漢字を出しておいて、あとからは仮名表記」という方法は、一般名詞では有効なのですが、固有名詞の場合は若干逆効果なので却下。

ということで、一応結論としては…
漢字は、不可とまでは言えないが、すすめられない。
無難な処理としては、片仮名表記。
分かち書きなどの表記の工夫をする前提での平仮名表記は有効だが、その配慮が不充分ならば片仮名のほうが良い。
こんな感じです。

どの表記を選ぶかは、場の状況によっても、筆記者の価値観にもよっても変わってくると思います。
必ずしも上の通りである必要はありません。
しかしいずれにせよ、その判断は、できれば最初に「ももたろう」と聞いた瞬間になされなければなりません。
前に「小犬・仔犬・子犬」の時にも言いましたが、桃太郎に限らず、ちょっと厄介な名詞は、その後その単語がどういう位置づけになるかという見通しを持って、処理を決めることが必要です。

桃太郎ついでに、もう一つ。
『ももたろう』でたまにあるのが、おじいさんの「シバ刈り」間違い。
芝刈りじゃなく、柴刈りで。
おじいさん、芝生は刈りません。
ちなみに「柴」は人名漢字だけれども表外字。
この表記検討は、桃太郎より難しいかも。


Last Update 2010-06-03 (木) 12:00:10

本文終了

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