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要約筆記実践10 列挙された並列情報―集約法と抽出法の使い分け

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要約筆記実践10 列挙された並列情報―集約法と抽出法の使い分け

前回のつづき。
複数の並列情報の列挙に対する処理について。
つづきと言いつつ何やら流れが食い違ってますが、悪しからず。

まず、要約筆記の常套技術として2つの手法を紹介しました。

  • 1.列挙された情報の集合を端的に表す言葉に置き換える。(集約法)
  • 2.1個ないしは数個の情報をピックアップして「等」でくくる。(抽出法)

どちらも、よく使う手法です。
状況によって使い分けます。
使い分けにあたっての主な判断材料は2つ。
1つは、元情報の集合の広がり・バラつきの具合。
もう1つは、筆記時間など要約筆記上の物理的制約。
基本的には前者をもって判断をしていきますが、実際にどの処理を選択するかは常に後者との兼ね合いで決まってきます。
というのは建前で、現場では、時間が無い中で可能な選択をするしかないのが実際だったりするのですが、いずれにせよ、元情報とのバランスで判断をすることは変わりません。
複数の並列的な事柄が列挙されていて、その要素をピックアップする場合、その提示によって元情報の全体像が浮かぶような抽出が求められます。
したがって、列挙された情報のバラつき具合が大きければ、それだけ多くの要素を拾う必要が出てきがちです。
また、バラつきが大きすぎる場合は、具体例を拾うことで逆に全体像が見えなくなる場合があります。
そういう場合、もしくは必要なだけの要素を拾う時間的余裕がない場合は、1の手法(集約法)を選択せざるを得ないことになります。

少し例を。
下に3つの文章があります。

  • A:「お見舞いに、りんご、みかん、キウイ、バナナ、オレンジ、グレープフルーツのカゴ盛を貰った。」
  • B:「お見舞いに、りんご、みかん、キウイ、パイナップル、マンゴー、ドラゴンフルーツのカゴ盛を貰った。」
  • C:「お見舞いに、りんご、みかん、キウイ、巨砲、メロン、サクランボのカゴ盛を貰った。」

どれも、フルーツのカゴ盛を貰ったと書いていますが、内容は違います。
前回、要約筆記では抽出法が好まれる傾向にあると言ったのは、「お見舞いに果物を貰った」と集約法で書いたのでは、元の言葉を推測できないから。
しかし中途半端に拾うぐらいなら、かえって集約法のほうが良いとも言えます。
3つの例に共通するのは、りんご、みかん、キウイですが、ここで3例文とも「りんご、みかん等」と書いたのでは、元情報の全体像が浮かぶ抽出と言えないのは明らかでしょう。
では、どうするか。
考えるにあたって、まず条件を確認します。
上の例文、発話に要する時間を考えれば、筆記に使える時間は7~10秒。
仮名で15~20文字程度が筆記可能な量。
「見舞い」「貰った」という要素を書くとすれば、果物説明に使える時間は、せいぜい5~10秒。
「フルーツを」と書けば3秒程度で済みますので、もうちょっと書けるな、具体例も入れられるな、という見通しは立ちます。
よって抽出法を選択するとして、では何を拾うか。
10秒程度で拾えるのは、要素2つぐらい。

まずA。
「りんご、みかん、キウイ、バナナ、オレンジ、グレープフルーツのカゴ盛を貰った。」
これは、「りんご、みかん等」でも構いません。「りんご、バナナ等」でも構いません。
他の選択肢もあると思いますが、グレープフルーツだけは拾いません。
グレープフルーツを拾うなら、同じ時間で2つの要素を入れたほうがいいと判断されるから。
2つの要素分の時間を使って書くほどの意味は、この場合グレープフルーツには無いでしょう。

で、B。
「りんご、みかん、キウイ、パイナップル、マンゴー、ドラゴンフルーツのカゴ盛を貰った。」
ちょっと南国フルーツ系のカゴ盛です。
「南国フルーツを貰った」と言い切るのは如何なものか…と思われるので、抽出法を試みます。
りんご・みかんでは南国っぽさは伝わらないとはいえ、マンゴー・ドラゴンフルーツでは偏りすぎ。
りんご・パイナップル・ドラゴンフルーツぐらいでバランスが良いかなと思うものの、それだけ書く時間は当然無い。
結論から言えば、りんご・マンゴーまたは、みかん・マンゴーという抽出が無難。
パイナップルとドラゴンフルーツは、よほど必要性がないかぎり、時間的に拾えないんですね。
しかもドラゴンフルーツは、認知度が微妙なので、代表選手に選ぶのは躊躇われる。
ということで、南国っぽさを出す要素としては、マンゴーを拾わざるを得ない。
そこにキウイを重ねると、ちょっとバランスが傾く感覚がするので、りんごかみかんを持ってくる。
こんな感じです。
こういうこと、あんまり言い切ると差しさわりがあるんですが、まあ現実的な選択かと思います。

Cの場合はどうか。
「りんご、みかん、キウイ、巨砲、メロン、サクランボのカゴ盛を貰った。」
これは、ちょっと高そうなカゴ盛だなという印象を受けるわけです。
ということで、そういう印象が伝わるような抽出することになります。
ダイレクトに「高級なフルーツ」とか書くのは、通訳の主観が入りすぎなのでNG。
考え方はBと同じです。
書ける要素は大体2個。
巨砲・メロン・サクランボからの2択は偏りすぎ。
この中から1個は抽出するとして、筆記時間から言えばメロンに軍配。
ただし、メロンの持つステレオタイプな印象を避けたいと思えば、巨砲かサクランボの抽出も良。
ここで巨砲をブドウに変換するのはアリ。
という感じです。

長くなったので説明は次回に回しますが、集約法、抽出法以外に、その混合型もあります。
また、チームでの筆記の場合は、補助者を使うことで、もう少し違う時間の使い方をすることも出来ます。
補助の使い方については、またいつか。

なお補足ですが、上で集約法の例として「お見舞いに果物を貰った」と書きましたが、「お見舞いにフルーツを貰った」「お見舞いにカゴ盛を貰った」でも構いません。
パターンとして書いていますので、実際は表記の工夫は必須。
また、ここではあくまで例文の範囲内での筆記を考えていますが、実際の場合であれば前後の文脈がありますので、また判断は変わってきます。
例えば、直前に入院云々のくだりがあれば、「お見舞い」の語は不要かもしれません。


Last Update 2010-06-03 (木) 12:01:17

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