盲ろう者とは目と耳両方に障害のある人のことをいいます。
富山盲ろう者友の会では、盲ろう者とその支援者の交流・支援活動を行っています。

現在の位置: ホーム > 盲ろう者と通訳技術 > column > 要約筆記技術9 文書要約と要約筆記の違い

要約筆記技術9 文書要約と要約筆記の違い

本文開始


要約筆記技術9 文書要約と要約筆記の違い

要約筆記という名前のせいで混同されやすいのですが、いわゆる「要約」と要約筆記は全く別物です。
要旨を…という点で共通する要素もあるにはありますが、根本的に違うのは制約のあり方。
多くの場合、一般の要約作業は字数制限のもとに行われます。
元となる文章等の要点をまとめて、限られた字数以内の文章に仕上げる。
その文章をまとめるのに要する時間は必ずしも問われません。
対して要約筆記では、時間という要素に最も大きな制約を受けます。
60分の話を要約筆記するならば、要約筆記に使える時間も60分。
その時間の中にゆっくり考える余裕などはありません。
というのも…

話者の話すスピードを300字/分とすると、60分間で話す文字数は
60×300=18000字。
要約筆記では最低2割書けないと通訳として成立しにくいと考えると、必要な筆記量は
18000×0.2=3600字
それを60分間で書きあげるための平均筆記スピードは、
3600÷60=60字/分

分かりやすいように文字数を使って数字を出しました。
実際には、文字数での解釈には問題があるのですが、それについては後日。
で。
この平均60字/分というスピードを充たすには、ほぼ休まずに書き続ける必要があります。
(よほど書くのが速い人でも70~75字/分ぐらい。手書きの話です。)
当然、ゆっくり考える時間はありません。
手を止めれば、そのぶんだけ提供する情報量が落ちますし、ある程度以上落ちると情報保障そのものが成り立たなくなってしまう。
聞きながら判断して書きながら考え……の繰り返しです。
こうした“常に書き続ける状態でギリギリ必要な情報量を表出できる”という作業特徴から、要約筆記には、文書の要約には無い特徴が幾つか出てきます。

1.満遍ない筆記内容になる
文書要約であれば、要旨にあたる部分を重点的に丁寧に拾って…ということをしますが、要約筆記では話の緩急と筆記の緩急をそういう形で合わせることは出来ません。
多少の緩急を付けることは可能ですが、特定の箇所に集中して時間を使うことは基本的に無理ですし、下手にそれをやろうとするのは禁忌と言って良いでしょう。
どの箇所も大体同程度の要約率で進んでいかざるを得ないのが要約筆記の特徴です。

2.見切り発車した上で整合性を取る
文書要約では、全体を読んだ上で要約をしますので、全体を通しての判断が予めできますが、要約筆記は違います。
話の展開、方向性が分からないまま、書いていきます。
これは他の同時通訳、外国語通訳や手話通訳でも同じことが言えるわけですが、それらと要約筆記が違うのは、「要約筆記は急げない」ということです。
同時通訳なんかを聞いていますと、時々早口で言ってますね。
手話通訳も急げる。
対して、字を書く速さ、或いはパソコンを打つ速さというのは、多少は急げたとしても、そうそう急げるものじゃないです。
元々ゆっくり書いているわけでもないですし。
よって、1箇所に盛り沢山に情報を入れることも、遅れを取り戻すことも、要約筆記は不得手。
また、聞いてから書き始めるまでのスパン(溜め)も、概して手話通訳より短くなります。
待つと成り立たなくなるので、待てないのです。
話の方向が見えようが見えまいが、書いていくしかない。
そして書きながら、続きを聞きながら、それらの整合性を取り、見切り発車の部分も活かしつつ正しい方向に文章を構築していくことになります。

3.文章の形式も表記の不統一も気にしなくていい。
これについては後日、表記技術と絡めて説明します。

要約筆記と文書要約の主な違いは、こんなところでしょうか。
とにもかくにも筆記者がベストな速度を保って書き続ける事が、最大量の情報を提供する必要条件。
となると次は、その条件の中でどうやって質の高い筆記をするかという問題になります。
当然ながら、休まず書きさえすれば良いというわけではないので。


Last Update 2010-06-03 (木) 11:49:24

本文終了

powered by Quick Homepage Maker 4.27
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. QHM

最新の更新 RSS  Valid XHTML 1.0 Transitional