盲ろう者とは目と耳両方に障害のある人のことをいいます。
富山盲ろう者友の会では、盲ろう者とその支援者の交流・支援活動を行っています。

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かけはし20

本文開始

かけはし20

(2019年11月発行)

目次

編集部説明

7月14日(日)、盲ろう者向け通訳・介助員養成講習会(主催:富山県聴覚障害者協会)で、東京盲ろう者友の会理事長の藤鹿 一之(ふじしか かずゆき)さんによる講義が行われました(通訳・介助員も聴講を許されました)。テーマは「盲ろう者の通訳・介助を行う際に心がけてほしいこと」です。出席できなかった通訳・介助員や、まだ養成講習会を受けていない会員の為に、編集部でまとめた講義内容を掲載します。掲載を許可してくださった藤鹿さん、並びに富山県聴覚障害者協会に感謝申し上げます。
講義は、今年3月に亡くなった東京盲ろう者友の会理事の荒 美有紀さんの思い出を交えながら進められました。

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盲ろう者の通訳・介助を行う際に心がけてほしいこと

東京盲ろう者友の会理事長 藤鹿 一之

荒さんとの出会い

荒さんは最初は耳が聞こえなくなり、のちに全盲になりました。点字の指導をしていた通訳・介助者から「荒さんと会ってほしい」と頼まれて、荒さんが入院している病院に見舞いに行ったのです。荒さんはお母さんといっしょにいらっしゃいました。とてもおしゃれな女性でした。ここで問題です。

話す藤鹿さん

Q.僕と荒さんが直接、挨拶をしました。当時、荒さんは指点字はちょっとしかできない。全盲ろうのふたりのコミュニケーション手段は何だったでしょう? Sさん。

(S)手書きかな。

ストップです。最初に発言される時は、必ずフルネームと性別を教えてください。

(S)○○○○(名前)、女性です。たぶん手書き文字だと思います。

当たり。手書き文字です。当時は、荒さんの得意分野は手書き文字でした。すごく速かったですよ、読み取りが。で、挨拶だけは手書き文字、そのあとは通訳・介助者含めて6人で4時間くらい話しました。ここでクイズです。

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状況説明の大切さ

Q.このとき、僕の通訳・介助者によく見ておいてね、ぼくに状況を教えてねと言ったことは、次のうちのどれでしょう?

1.30分ごとに時間を教えて
荒さんは通訳に慣れてないから、たびたび休憩時間を取る必要がありますからね。
2.荒さんの表情
3.進行速度

ひとりひとり手をあげてください。1.だと思う人? いない。 2.は? 10人くらいですね。3.は? ひとり。
多くの方々、正解です。2.表情を伝えてほしい、と言いました。

Q.では、なんで2番と答えたかな? Hさん。

(H)○○○○です。女性です。自分の言ったことがちゃんと伝わっているか確認できるからです。病気であるので、体調も表情から読み取れます。

当たっています。でも、それがいちばんの理由ではありませんが。
自分が話していることが伝わっているかどうか確認する。そうですね。伝わらなければコミュニケーションが成立しない。
体調がある。顔色がわるい、疲れているのを教えて。疲れているなら休憩をとるから。
ふたつ当たっています。

今度は、Iさん。どうでしょう?

(I)○○○○です、男性です。喜怒哀楽の表情が、ことばを指点字にしただけでは伝わらないからです。

ピンポン。そのとおり。指点字はある意味、平坦ですね。同じテンポでうたれると、テンションが上がっても下がっても同じだから、表情をつかみにくい。僕は見えないから喜怒哀楽を伝える必要があります。怒っているのか泣いているのかでは、対応を変えなきゃいけないでしょう。怒っていれば、ちょっと言い方悪かったかなと思って謝るし。笑ってくれればそのままどんどんいきますね。
もうおひとりに聞こうかな。Fさん、あなたがぼくの通訳だったとします。相手が、僕と話をしながらたびたび腕時計に目を落としていたら、どういう状況?

(F)○○○○です、女性です。このあと予定が入っているのだと思います.

そのとおり、時間がない。だから、たびたび腕時計に目を落とす。そのほか、藤鹿と話したくないから、わざと腕時計に目を落として「時間がないんだぞ」とアピールする、ということもあるかもね。で、その様子をなんで伝えなきゃいけないと思います?

講義の様子

(F)今後、互いに良いつきあいが続くように。

そうです。盲ろう者の対人関係を豊かにするためですね。見える人の場合、相手が時間を気にしていたら、話をきりあげるでしょう。あるいは予定があるかと聞きますね。
目から入ってくる情報は大事です。雰囲気、気まずい、みんな笑っている、こういう状況を伝えてもらって、初めて盲ろう者の会話が成立する。みなさん、状況説明を上手にできるようになってください。

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荒さんが前向きに

荒さんの話に戻します。初めて会ってから1年後、荒さんもいろんな体験をしました。荒さんに聞いてみました。盲ろうになったとき、どんな気持ちだった?と。
答えは「すべてが終わったと思った」。僕自身、全盲ろうになったときは、すべてが終わったと思った。でも、徐々に慣れてきて、通訳・介助者にサポートしてもらったことがすごく大きかったですね。元気になってきた。前向きになっていた。
荒さんに、「今いちばん行ってみたい所はどこ?」と聞いたら、「海外はフランス、国内なら甲子園」ですって。荒さんは阪神タイガースのファンです。「一回行ってみたい。7回裏にタイガースの攻撃の時に風船を飛ばすのが好きだ」と言っていました。そのとき全国盲ろう者大会が神戸であったので、「いっしょに行ってみる?」と誘ってみました。いっしょに大会に行くことになりました。

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電車の中で不安になるとき

全国大会の当日。私は家族に最寄りの駅まで送ってもらって、電車に乗せてもらいました。電車の中はひとりです。東京駅から新幹線に乗り、荒さんとは品川で合流する予定でした。
そのころ僕は人工内耳の手術を受けて4ヶ月。少し耳から情報が入ることで、こんなに違うんだと思っていましたよ。車内アナウンスが聞きやすい女性の声。次の駅を自分で確認できる。ちょっと聞こえるようになっただけでこんなに違うんだと思っていた。ところが当日、人工内耳の電池がすぐに切れた。なので、全盲ろうの状態。そして、よりによって電車が止まってしまった。ここで質問。

Q.ひとりで電車に乗っていて不安なことは、次のうちのどれ?

1.乗客から声をかけられたとき
2.駅でもないのに電車が止まったとき
3.次の駅がわからなくなったとき

何番でしょう?2番が多いですね。Oさん、何番?

(O)○○○○です、女性です。2番です。

そうです。
まず1番について。僕は乗客から声をかけられたこと自体わからない。「どうしましたか?」「席あいてますよ」とか声をかけられても、見えなくて聞こえないから分からない。1番じゃない。

では、なんで2番かな?Tさん。

(T)○○○○です、女性です。止まったことに不安がある。事故なのか、どういう状況で止まっているのかわからない。時刻通り電車が動くか、荒さんとの待ち合わせに間に合うかどうか、情報がないとわからない。

100点です。電車が止まった。なんで止まったかわからないと、とても困る。
急病人なら、その人を電車から降ろせばいいので、せいぜい10分くらいの遅れで済みます。これが人身事故だったら、たいへんなんですよ。最低30分。さらに困るのがポイント故障。これは数時間かかります。
止まった原因がわからないと、次にどういう行動をとったらいいかわからない。皆さんは見えて聞こえているからね、次に何をするか、自己決定、自己判断しているんですよ。見えて聞こえる方は自然にやっているのでいちいち気にしてないけど。情報が入らない状態だったら、ぼくはたぶんひとりで中で待っている。全盲ろうの状態で、勝手にホームに降りて移動するのはきわめて危険だから。盲ろう者が自己判断、自己決定できるような情報がほしいのです。

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状況説明で伝えてほしいこと

状況説明で優先的に伝えなきゃいけないことを三つ説明します。

1.交通機関でトラブルがおきたとき
どんなにおしゃべりしていても電車が遅れていると伝えてください。

2.盲ろう者本人にとってかかわる内容
たとえば、「明日の養成講習会は予定より1時間早くなります」とかは大事でしょう。盲ろう者が知らなければ1時間遅刻ですね。その場合、伝えていなかった通訳者の状況説明が足りないことになり、信頼されなくなってしまう。

3.盲ろう者が興味を持っているような内容

Tさんの趣味は?

(T)書道です。

Tさんが盲ろう者だったとして、まわりが書道の話をしているのに、それを通訳・介助者が伝えてくれなかった。それをあとから知ったらどう?

(T)嫌な気分になります。

でしょ。どうしてそのとき伝えてくれなかったかと思うよね。盲ろう者が興味を持っていることを伝える。それを優先的に伝えるためにどうするか。それは、盲ろう者といっぱいコミュニケーションをとって傾聴する、盲ろう者の話をよく聞くこと。東京では電車で移動することが多いです。電車の中のおしゃべりはすごく重要。通訳しやすいようなヒントがたくさん出てくる。ニーズ、趣味、好きな食べ物とか出てくると、状況を説明しやすいですね。

それから。

4.伝えないと、盲ろう者および周りの人に迷惑をかけてしまうような事態

ひとつ事例を話します。ある盲ろう者とテーマパークに行きました。すでに蛍の光が流れている。もう閉園ですよね。いっしょにいる盲ろう者の通訳・介助者が、「アイスクリームを売っている場所がある」と言った。盲ろう者が「食べる」と言った。店の人にアイスの説明をしてもらったが、盲ろう者は「やっぱりやめます」と言った。これは迷惑がかかっていますよね。
ここでの問題は、その盲ろう者に、蛍の光が流れていること、閉園時間になることを伝えていない。通訳・介助者の状況説明不足です。蛍の光が流れ、閉園時間だと分かっていたら、「アイスは、また今度にしよう」と言います。でも、終わっていることは知らないから、「アイスを食べたい」と言っても不思議ではないですね

もうひとつ。別の盲ろう者とご飯に行った。そのときにメニューを決めますね。メニューを決めるのに45分かかったんですよ。
どなたかに聞いてみよう。Nさん、あなたが店長だったらどうですか?

(N)○○○○です、女性です。メニューの内容を的確に伝えなかったということですよね。

そうです。そのとき通訳・介助者は、メニューを全部読んでいました。たとえば、カテゴリー別に説明してどんどん絞っていけば効率がいいですね。
ここでの問題は、何度か店員さんが様子を見に来ている。それを伝えていないということです。盲ろう者がそれを聞いていれば注文を急いだと思います。状況をきちんと伝えないことで、その盲ろう者が常識がない人と誤解される可能性がありました。
状況説明は全部伝えるのは無理です。優先的に選んでほしいのが、いま言った4つです。この4つをポイントに置きながら状況説明をしてください。

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立場やニーズを考えて

あと、その盲ろう者がどんな立場にいるか。今日、僕は講義をしている。いちばん伝えてほしいのが、受講生のみなさんの様子です。皆さんの様子が分からないと講義が進めにくい。逆に、受講生の立場なら、講師の様子。違うんですよ。立場によってニーズが変わります。同じ盲ろう者でも。
基本通りにいかない。朝起きてから寝るまで予定通りにはいかないですよね。基本をベースに、その盲ろう者のニーズや立場にあったサポート、通訳・介助をやってください。

(I)○○○○です。質問があります。
さきほどのメニューの話の関連です。お店に行くと今日のおすすめ、定食、日替わりなどの、独特なメニューがあります。一般論として、はじめて指点字通訳する人に、おすすめを言ったほうがいいかどうか?

とてもいい質問ですね。まず、盲ろう者に聞く。これがいちばん重要。次に、そのお店のおすすめ。それからお得な情報、セットにすると3割引きなど。あと、僕だけかな? 新発売、期間限定は、絶対に教えてほしい。

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盲ろう者が自己決定するために

優先的に伝えなきゃいけない話をもう少し。東京の実習の時にあった話です。受講生が盲ろう者の行きたいところに行って、いっしょに買い物をする実習でした。ある日、受講生に「明日は研修で講義をするから、会場でパンを食べる。パンがあるところに連れて行って」と言いました。連れていってくれました。「どんなパンがあるの?」と聞いたら、答えは「いろいろあります」・・・
見えない状態で「パンがいろいろあります」と言われても、選びようがないですね。自己決定できない。次に「どんなパンがあるの?」と聞いたら、「6枚切りの食パンがあります」・・・会場で食べると聞いて食パンの情報を伝えてくれるかなあ。ありえないよね。これでは買い物の通訳をお願いできないと思いました。

これは余談ですが、栃木で講義をしたとき。すごく評判の餃子の店がある。朝早く行きました。すごい行列です。12:30には店を出てタクシーに乗らないと講義の会場に間に合わない。Hさん、僕はどうしたと思います?

(H)まず、注文して商品がくるまでの時間と食べ終わるまでの時間を確認したうえで、注文するか、あきらめるかを決める。

そうですね。お客さんの動きを見てもらいました。店の回転が速いか遅いか。その店は餃子しかない。食べるとすぐ出る。結局、食べた。12:30には食べ終わったのですが、想定外な出来事が起きたんです。タクシーがつかまらない。5分遅刻してしまいました。
誰の責任? 僕の責任ですよ。通訳・介助者が、きちんと状況を説明してくれた上で、自己決定、自己判断したのです。盲ろう者本人の責任ですね。

藤鹿さんと通訳・介助者の板垣さん

話を戻すと、荒さんは新神戸駅で私を出迎えてくれて、そのあと六甲山牧場に行った。盲ろうでも楽しめる方法をみんなで役割分担して決めていた。山羊に触るとか、チーズシェークがすごくおいしかった。全盲ろうでも、工夫をすればいっぱい楽しめることがある、と荒さんも知ることができた。その後、荒さんは、東京盲ろう者友の会の理事を5年間、がんばってくれました(写真:藤鹿さん(左)と通訳・介助者の板垣さん(右))。

荒さんの話はここまでにします。最後に重要なポイントを整理します。

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通訳・介助を行う際の留意点

1.安心して移動や通訳を受けられるようなサポートを

盲ろう者といってもいろんな人がいます。でも、共通しているのは安全。安心して通訳と移動介助を受けられること。盲ろう者だけでなく、みなさんご自身のことも考えて。双方の安全を確保すること。

2.基本をベースに盲ろう者のニーズにあった通訳・介助を

どのような情報を優先的に伝えればよいかわからないとき、自分が盲ろう者の立場ならどうするか、と考えてください。

3.観察と傾聴

動きを観察してよく話をききましょう。

4.マナーとルール

ルールを確認してください。できてない人が多いのですが、盲ろう者に伝えるような相づちを打ってください。私の場合は手の甲を軽くたたいてもらいます。みなさんが頷いているというサインです。

5.話者がだれなのか、きちんと示す

6.基本は、直接話法

話者が発言したとおりに伝える方法です。間接話法との違いがわかりますか?Fさん。

(F)直接話法は、そのまま話の場にいっしょにいて会話の中に入っている。間接話法は会話から外れたような立場にいる。

そんな感じです。直接話法は話の中に入りやすい。間接話法だと入りにくい。基本は直接話法。
ただ、いろんな盲ろう者がいます。間接話法のほうが伝わりやすい人も中にはいる。10人いたら10通りの方法があります。

7.状況説明と補足説明を忘れずに

補足説明とは、盲ろう者に意味が伝わらないとき、音だけではどちらの意味なのかわからないときに説明する。例えば、「八村(はちむら)選手すごいね」という発言があったとき、その場で「今話題のバスケットボール選手」とか伝える。さらに、時間があるときに、「さっきの八村選手は」と言って、詳しい説明をしてくれるといいですね。事後説明と言います。その後、話に八村選手が出てくれば、盲ろう者は話に入れますね。
もうひとつの例。私が「これ、おいしい」と言ったとします。通訳は、「藤鹿 美味しい」と私の発言を伝えるとともに、「マスの寿司を食べている」というように状況を説明してください。

もうひとつ。どちらの意味かわからないとき。「もう一軒飲みに行く?」「いいよ」。この「いいよ」、指点字や筆記の場合、イエスかノーか微妙でしょう。「藤鹿 いいよ (首を振っている)」とすれば、行かないと言っていることが伝わりますね。

指点字の様子

8.盲ろう者の対人関係を豊かにする通訳を

環境調整をしてください。今みたいに、盲ろう関係の人が集まっているときに、九曜さんへの通訳が間に合わないときは、通訳・介助者が「もっとゆっくりお願いします」とか、「もういちど言ってください」と言ってください。九曜さんが通訳を受けやすい環境を作ります。

これで午前中の講義をおわります。ありがとうございました!

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編集部註

藤鹿さんの話の中で「通訳・介助者」ということばが出てきます。全国的には「通訳・介助員」という名称が使われることが多いですが、活動内容等は全く同じです。(編集部)

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