かけはし22
かけはし22
(2020年5月発行)
目次
会長挨拶
九曜 弘次郎(全盲難聴)
世間では毎日、新型コロナウイルスの話で持ちきりです。これはさまざまなところに影響が出ています。友の会の活動も3月以降、すべてお休みになりました。友の会の活動がお休みになると盲ろう者が外出する機会がなくなってしまい、引きこもっている盲ろう者も多いと聞いています。
ウイルスの感染を防ぐ対策として、政府より3つの条件を避けるようにとの発表がありました。とりわけ3つの条件が同時にそろう場では、感染のリスクが高くなるそうです。
- 換気の悪い密閉空間
- 多数が集まる密集場所
- 間近で会話や発声をする密接場面
盲ろう者は手を使って直接ふれあうことでコミュニケーションしますので、「近距離での会話」、「手の届く距離に多くの人がいる」ということを避けるのは難しいと思いました。また、盲ろう者は触れることで周囲の情報を得ますので、ウイルスへの感染率が高まるかもしれません。私はとりあえずの対策として、こまめに手洗いをするようにしています。
また、弱視の盲ろう者や聴覚障害者の方は話し手の口元を見ることで話を理解する助けにしますが、相手がマスクをしていると口元が見えずコミュニケーションが取りづらいともいわれます。
このように考えると、今回の新型コロナウイルスは、盲ろう者の社会参加にも大きな影響を与えていると感じました。1日も早く収束してほしいですね。
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今後の活動について
新型コロナウイルスの感染拡大が続いています。政府は4月16日、「緊急事態宣言」を全国に拡大し、感染拡大抑制のため人と人との接触を減らすよう呼びかけ続けています。
この原稿を書いている時点(5月3日)では、残念ながら感染拡大が止まる見通しは立っていません。したがって、今後の活動も当面、中止とします。6月は総会がある月ですが、この総会の開催の仕方については最後に書きますので、必ず読んでください。
人工内耳と通訳・介助
九曜 弘次郎
人工内耳とは
耳の鼓膜の奥には「内耳」と呼ばれるところがあります。内耳の器官のひとつが「蝸牛(かぎゅう)」です。この蝸牛の傷みがひどいと、補聴器の効果がないほど聞こえが悪くなってしまいます。そのような状態になった人の聞こえを回復しようとするのが「人工内耳」です。マイクで拾った音を電気信号に変えて、蝸牛の中に入れた電極に流し、聴神経を刺激することで、声や音を伝えるのです。
(図は日本耳鼻咽喉科学会のHPから)
きっかけ
私が人工内耳をすることになったのは、2019年3月にサンシップで開催された『耳の日の相談会』に参加したことがきっかけです。その日は特別相談したいことはなかったのですが、どのようなイベントか見てみたいと思って参加したのです。そこで、以前大学病院でみてもらっていた先生にお会いしました。
私は多少聴力が残っています。手術前の両方の耳の聴力は90dB 程でした。普段は主に左耳で言葉を聞き取っていましたが、右の耳もまったく聞こえないわけではなく、環境音など聞くことができ、例えば外出時一人歩きするときに、車の音など音の方向を確認するのに右の耳でも音を聞いていました。
人工内耳については以前から情報を集めていましたが、まったく聞こえない人が音を取り戻す最後の手段として装用するものだという認識でした。ですから、自分はまだ聴力が残っているので、人工内耳を考えるのは早いと思っていたのです。 先生も、「補聴器で聞き取れているのであれば、人工内耳をお考えいただかなくてよいと思います」とおっしゃいました。
その一方で、「今よりも聞こえを改善しようと思えば、現代医学では人工内耳以外手段がありません」ともおっしゃいました。
私は非常に悩みました。人工内耳でどのぐらい聞こえるようになるのだろうか。また今の残存聴力を失いたくない、という気持ちがありました。悩みに悩んだ結果、人工内耳を装用することに決めました。普段左耳に補聴器を入れて言葉を聞き取っていましたので、左耳はそのまま残して、普段あまり使っていない右耳に人工内耳を装用することにしました。そうすれば仮にあまり効果がなくても、なんとか左耳でやっていけるのではないかと考えたのです。
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手術
手術前、2ヶ月に1回の割合で病院に通い、人工内耳の適用検査を受けました。その結果、無事に適用になることがわかりました。そして2019年12月2日、人工内耳の手術を受けました。
人工内耳は、手術をしたらすぐに聞こえるようになるわけではありません。人工内耳で音を聞くためには、スピーチプロセッサーと呼ばれるマイクで拾った音を電気信号に変換し、内耳に埋め込まれた電極に伝える機械を装着する必要があります。これを装着しないと音は聞こえません。さらに、人工内耳で言葉を聞き取れるようになるためには、聞き取るための訓練が必要です。
(図は日本耳鼻咽喉科学会のHPから)
私は、2019年12月13日に、初めて人工内耳で音を聞きました。最初音を聞いたとき、正直がっかりというかショックでした。まったく言葉が聞き取れないのです。「ボコボコ ジュージュー」と聞こえるだけで、それが人の声なのか、それとも物音なのか、まったく判別が付かないのです。左耳の補聴器を止めて人工内耳だけで聞いてみると、先生の言葉が一部わずかにわかる程度でした。しかし、先生は、「スタートとしては上出来です。だんだん人工内耳が役に立ってくるようになるでしょう」とおっしゃいました。「毎日できるだけ長い時間人工内耳を付けて音を聞くこと。いろんな人と会話すること。それがリハビリになる」とのことでした。
ほんとうに人工内耳で言葉が聞き取れるようになるのだろうか?と不安でした。それでも、既に手術してしまったからには後には引けません。毎日、人工内耳を付けて、言葉を聞き取る訓練をしました。すると2週間ほど経ったころ、NHKのニュースがある程度聞き取れたのです。
2020年1月24日に再び病院に行きました。すると、前回はわずかに言葉が聞き取れるだけだった先生の話し声でしたが、普通に会話することができました。
「今日はここまでどうやって来ましたか?」
「バスに乗ってきました」
「一人で来られたんですか?」
「はい、一人でバスに乗ってきました」
このような会話を交わすことができました。
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今の聞こえ方
このように人工内耳で言葉が聞き取れるようになってきましたが、まだまだ完全ではありません。現在これを書いているのは2020年3月ですが、現時点では人の声は補聴器で聞いている声とは違い、何だかテープを遅く再生したような低くて変な声に聞こえるのです。先生や人工内耳を装用している知人など数人に尋ねてみたところ、まだ音を入れて3ヶ月程度では脳が慣れていないのでそのうちだんだん自然な声に聞こえるようになるだろう、とのことでした。しかし、ここ暫くあまり改善がみられないようなので、少し不安もあります。
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みなさんにお願いしたいこと
たとえ訓練してそれなりに聞き取れるようになったとしても、人工内耳は人間の耳のように聞こえるわけではありません。先ほども書きましたように、スピーチプロセッサーと呼ばれる機械を通して、マイクで拾った音を聞いています。そのため、遠くの人の声や、騒がしい場所での会話が難しいといわれます。通訳が必要です。
また、耳元に向かって話す人が多いのですが、補聴器や人工内耳のマイクは顔の前の方に付いています。これは、人の話を聞くとき、その人の方に顔を向けて聞きますよね。ですから、前からの音を拾うように作られているのです。耳元に向かって話すのではなく、前の方から話しかけるようにしてください。
それから、ここはよく誤解している人が多いので強調しておきますが、人工内耳に音を届けるスピーチプロセッサーはバッテリーや電池で動作しています。つまり、これらが切れると音が聞こえなくなります。また、機械ですので故障や紛失など、どのようなトラブルが起こるかわかりません。人工内耳で音が聞こえるようになっても、聴力そのものが戻ったわけではありません。故に、盲ろう者であることには変わりありません。実は、手術によってわずかに残っていた右耳の聴力はなくなってしまい、スピーチプロセッサーを装着しなければ完全に聞こえなくなってしまいました。多少覚悟していましたが、やはり実際に残存聴力がなくなってみるとショックでした。裸耳の聴力としては、むしろ手術前より聴力が低下したことになります。音声通訳だけではなく、指点字など他のコミュニケーション方法でも話ができるようにお願いします。
ここには書けなかったこと、また今後の聞こえの変化など、ブログに書いています。もしよろしければ是非ご覧ください。
http://www.sf-dream.com/
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活動報告
石川盲ろう者友の会と交流
2月8日(土)の定例会には、石川盲ろう者友の会から盲ろう者3人と支援者5人、あわせて8人がいらっしゃいました。
はじめに、石川の友の会が受託している「金沢市盲ろう者生活訓練事業」について、話を聞きました。パソコンや点字を習得するためのコミュニケーション訓練、料理や掃除などを学ぶ家事管理訓練のほか、歩行・外出訓練などを実施しているそうです。65歳を過ぎてから点字を覚えた会員もいる、とのことでした。
富山でも、将来的にはぜひ実現させたい事業です。
その後は、交流会を行いました。
盲ろう者のコミュニケーション手段は、人それぞれです。相手のコミュニケーション手段を学びながら、なんとか直接、会話しようと頑張ります。
こちらは、手書き文字での会話。相手の手のひらに文字を書きます。書く方は比較的簡単なのですが、受ける方は慣れないと読み取るのが難しく、何度か書き直してもらいました。
これは、ローマ字式の指文字での会話。相手の手のひらに、子音の指文字と母音の指文字を続けて書いて伝えます。富山の会員はローマ字式の指文字の体験は初めてで「指点字とは全く違う新鮮な体験でした」。
富山の友の会の九曜会長は、もともと視覚障害で難聴になりました。ふだんは音声通訳または指点字通訳を利用するのですが、この日は、頑張って覚えた手話単語を駆使して、触手話の会話を試みました。
おしゃべりで盛り上がった交流会。「北陸三県の盲ろう者団体の交流会ができるといいね!」という話も出て、これから検討していくことになりました。
新型コロナウイルスに感染したとき
新型コロナウイルスの感染拡大が続いています(5月3日現在)。重症化した人を優先して入院治療を行うため、政府は4月23日、軽症の人や症状がない人は、原則としてホテルなどの宿泊施設で療養してもらう方針を示しました。しかし、検査で陽性と判断されてから療養先が決まるまでの間は、自宅で療養しなければなりません。ほかの家族を感染させない工夫が必要になります。また、発熱、せき、喉の痛み、体のだるさなど体調の異変を感じても、すぐに検査を受けられるとは限りません。検査を受けるまでの間は、感染しているかもしれないと思って、慎重に自宅療養したほうが良いでしょう。
自宅療養で注意すること
厚労省は自宅療養の場合の注意点を8つ、あげています。
- 寝るときも食事のときも、感染者と家族の部屋を分ける。
- 感染者の世話は、できるだけ特定の人だけで。
- マスクをつける。
- 小まめに手を洗う。洗っていない手で目や鼻、口などを触らない。
- 定期的に窓を開け放して換気をする。
- 共用部分(ドアの取っ手、トイレ、洗面所など)を消毒する。タオルを共用しない。
- 汚れた衣服、シーツなどは、手袋とマスクを付けて洗う。
- 鼻をかんだティッシュなどのゴミは、ビニール袋に入れ、密閉して捨てる。
詳しいことは、厚労省のサイトをご覧ください。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00094.html
また、新型コロナウイルスに感染すると、最初は軽い症状でも、急に悪くなることがあります。症状の変化に気をつけましょう。
入院
重症化しやすい高齢者や妊婦、基礎疾患がある人などは、軽症でも入院治療が原則となっています。
宿泊施設
富山県は、軽症の人や無症状の人が療養するための宿泊施設として富山市内のホテルを借り上げ、4月25日から運用を開始しました。宿泊費や食事代は無料です。看護師が常駐し、1日2回、体温や体調をチェックすることになっています。
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6月の総会について
第12回富山盲ろう者友の会総会を、6月27日(土)に富山県聴覚障害者センターで開く予定で準備を進めてきました。
しかし、多くの人が一定時間、ひとつの部屋に集まることは、新型コロナウイルスの感染拡大につながるおそれがあります。役員会で話し合った結果、今年の総会については、実際に集まらずに表決する「書面表決」によって議決権を行使していただくことにしました。
今のところ、次のような手順を考えています。
- 総会資料を6月中旬までに、メールに添付、または郵便で送ります。
- 議案について賛成か反対か、メールでお知らせください。メールを使っていない方のところには、資料の中に返信用のはがきを同封します。はがきに記入して返送してください。
- いただいたメールやはがきを集計し、6月27日に、表決の結果をお知らせします。
総会資料にも、書面表決のやり方を書いた紙を同封します。ご協力をよろしくお願いします。
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