かけはし25
かけはし25
(2021年1月発行)
目次
会長挨拶
九曜 弘次郎(全盲難聴)
あけましておめでとうございます。昨年はオリンピックやパラリンピックが開催され、日本が盛り上がると思いきや、突然のコロナ発生という想定外の出来事で、世の中一転してしまいましたね。今年はどんな年になるのでしょうか?果たして五輪は開催されるのでしょうか?
ところで、コロナ禍で毎日体温を測っているという人も少なくないと思います。ところが、盲ろう者、特に全盲ろう者が自力で使える体温計が存在しないのをご存知でしたでしょうか。「盲ろう者が自力で使える」というのは、すなわち自分で体温を測って、その体温が何度であるか確かめることができるという意味です。何だか当たり前のことのように思えますね。しかし、それが盲ろう者には難しいのです。
それに気がついたのは、先日、友の会の定例会に参加したときです。会場の規則で体温の記入を求められたのです。その時に思ったのです。「もし全盲ろうの盲ろう者が体温を測って来いと言われても測ることができないよなあ」と。
私自身は多少聞こえますし、スマホも使えますので、音声でしゃべってくれる体温計や、スマホと接続して利用できる体温計を使うことができます。しかし、全盲ろうの盲ろう者の場合、体温計の表示を見ることも、音声を聞くこともできません。スマホと点字ディスプレイを接続する手もありますが、ハードルが高いのが現状です。従って、盲ろう者は自力で使える体温計を求めています。体温計だけでなく、体重計、血圧計なども、盲ろう者に利用できるものはありません。
こんな「体温を測る」と言ったみなさんがごく当たり前にしていることにも、盲ろう者にはバリアがあるのです。盲ろう者にも利用できる体温計など開発していただきたいものです。
コロナ禍とメンタルヘルス
(編集部)
11月21日の定例会では、富山県心の健康センター所長の麻生 光男さんをお招きし、「コロナ禍とメンタルヘルス」と題した講演をお願いしました。麻生さんは、富山県射水市(旧新湊市)出身。旧富山医科薬科大学を卒業・同神経科精神科へ入局、その後、長く富山県立中央病院精神科で診療を続けられました。
麻生さんは
1.新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の基礎知識
2.メンタルヘルス(不安とその対処法)
3.コロナ禍のストレスと対処法
4.不安を抱えている人とのコミュニケーション
についてお話されましたが、ここでは2.と3.の内容を中心に編集部でまとめたものを掲載します。
不安について
富山県心の健康センター所長
麻生 光男
今日は、メンタルヘルスについて紹介していきますが、特に新型コロナウイルス感染症で注目されるのは、「不安」ということではないでしょうか。不安は未知のものに対して感じます。新型コロナウイルスはまだまだ知られていないことが多いので、不安を感じても当然なのです。
不安は安全が確保されていない環境であることを知らせてくれます。不安を感じるから、人は安全でない環境に対処することができるのです。したがって不安を否定するのではなく、不安をいかに活用して安全に生きていくかが重要になります。
不安は、不安として感じられる以外にも、さまざまな表現型(現れ方)があります。次のようなものも不安の現れです。
・他人に過干渉になる。
・いらいらする。
・攻撃的になる。暴力をふるう。
・確認行為が多い。戸締まりを何度もしないと安心できない、というようなことです。
・仕事や決断が遅い。
・身体症状が出る。めまい、頭痛、胸が苦しい、しびれなどはよくあることです。
・体の症状を過度に気にする。重病にかかっているのではと心配したり、ひどくなると死を考えたりします。
・薬、酒、食事、自傷行為に依存します。苦しさに直面しなくて済むように逃避するわけですね。
・ひきこもることもあります。人と接することに不安であったり、仕事をやっていく事に不安であったりします。
こうした状態になるようでしたら、安心するしか解決の道はありません。次に、安心の仕方について説明しましょう。
感情調整の方法
まずは、不安になるのも当然だな、と受け止めることです。今できることをすることで不安は落ち着きます。ウイルスについて勉強してみたり、手洗いなど自分でできることをやっていったりすることが大事です。それでも不安が強すぎるときは、不安を和らげるための行動を取りましょう。
国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所が「感情調整の工夫」という資料を作っています。
https://www.ncnp.go.jp/nimh/behavior/anxiety/emotion.pdf
それによれば、感情調整には3つのチャンネル(経路)別にできることを考えると良いようです。3つのチャンネルは関連し合っています。また、人によって有効な方法は異なります。
●身体チャンネル
▽集中的呼吸法は体の症状の軽減につながります。
回数をコントロールします。まずは3秒で吸い3秒で吐くことから始めましょう。吸うときは鼻から、吐くのも鼻からが望ましいですが、口で吐く場合は、できるだけ細くしてゆっくり吐いてください。
▽五感を使ってリラックスしましょう。
樹木や植物をながめる、アロマを楽しむ、マッサージを受けるのもいいでしょう。ひとつの感覚に集中することで、不安を和らげます。
▽セルフケアを意識しましょう。
運動、睡眠、食事をきちんとしていると、感情やストレスに対処しやすくなります。家の中を片付けるなど、環境を変えるのもいいでしょう。
睡眠については、厚労省が「健康づくりのための睡眠指針」(12箇条)を出しています。
良い睡眠は、心も体も健康にしますし、生活習慣病も予防します。良い睡眠のためには、適度な運動をし、しっかりと朝食を摂る、決まった時刻に起きることが大切です。
詳しく知りたい方は、以下を参考になさってください。
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000047221.pdf
いろいろやっても眠れないという場合は、専門家に相談してください。今は、ふらつきがなくてぼーっとすることの少ない薬もできてきています。
●思考チャンネル
▽注意のシフト
関心事を家の掃除に向けたり、過去の楽しいことを思い出したりしましょう。
▽前向きイメージ
前向きな状況や環境を思い浮かべてください。例えば、楽しかったこと、やり遂げ達成感を得たことなどを思い浮かべることです。
▽前向きなセルフステートメント(自分にかける言葉)''''
「自分には何もできない」ではなく「自分はできることをやっている」と、自分に言い聞かせるのです。
●行動チャンネル
▽タイムアウト
ストレスの強い状況から一定の期間をおきましょう。たとえば、喧嘩をしているときは、1時間後に話し合おうと言って散歩に出ましょう。
▽代わりの行動
過食や飲酒などを他の行動に置き換えましょう。たとえば、掃除をする、ジョギングをする、といったことをしてみましょう。
▽楽しめる活動を増やす
当たり前と言えば当たり前ですが、楽しめる時間、有意義で楽しめることを増やしましょう。ネガティブな気持ちが和らぎます。
コロナ禍のストレスと対処法
新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、次のような影響が心身に出る可能性があります。
・自分や大切な人の健康へのおそれや心配。
・睡眠や食事パタンの変化。
・いらいら、焦燥感。
・気分の落ち込み。
・健康状態の悪化。
・アルコール、タバコ、薬物使用の増加。
こういうときにはセルフケアが大事です。
▽情報との付き合い方を見直そう。
一日中ニュースを見るのはやめましょう。インターネットでコロナの情報を検索する時間を減らしましょう。
▽大切な人とのコミュニケーションを保つ
いちばん辛いのが孤独感です。コミュニケーションを控えると孤独感が増し、気分が落ち込みやすくなります。社会とのつながりが感じられるように、ラインやテレビ電話などインターネットのコミュニケーションツールを活用してください。
▽アルコール、カフェインの摂取を控える。
家にいる時間が長くなると、アルコールやカフェインの量が増えがちです。
カフェインは緑茶、コーヒーなどいろいろなものに入っています。多量に摂取すると交感神経系を過剰に刺激し不安や緊張を作り出すので、就寝する3~4時間前には控えましょう。
▽不安にさせる考えから距離をとる
誰かを感染させてしまうのでは、将来どうなるのか、という考えが頭を占めるとき、とりあえず、こういう不安になるのは自然なことなんだと思うことが大事です。その上で、生活に支障が出るようになると、マインドフルネス瞑想が効果的です。
▽マインドフル瞑想
座って目を閉じ、呼吸に意識を集中。途中で様々な考えが浮かんできたら、その考えに気づき、再び呼吸に意識を戻します。これを毎日15~20分くらい繰り返します。こんなことを考えてはいけないと評価するのではなく、あるがまま考えを受け入れる姿勢でやってみましょう。
国立精神・神経医療研究センターのサイトでは、これら対処法を「こころを健康に保つために大切なこと」として提案し、呼吸法や呼吸筋ストレッチについて、動画で紹介しています。https://www.ncnp.go.jp/nimh/behavior/anxiety/breathing.html
▽心の不調を感じたら
自分で対処法を実践しても不調が続く場合、眠れない、食欲がない、気持ちが晴れない、不安でしょうがないというときは、迷わずに専門家に相談してください。
富山県心の健康センターでも、相談を受け付けています。
最後に
何が起こるかわからないというのは不安です。「新型」コロナですから、何が起きるかわからない。不安になるのは自然なことです。それを認めた上で、ウイルスや感染症に関する事実を知ることがまず大事。さらに、自分でやれることをやっていくんだ、という気持ちがすごく大事です。
知って自ら対処することで、コロナ禍のストレスもある程度軽減できるのではないかと思います。
(写真は富山県心の健康センターが入る建物。麻生氏提供)
(編集部)
富山県では、新型コロナウイルス感染症や、関連した仕事や生活への不安に応じるため、LINEや電話による相談窓口を開いています。電話番号、相談時間など詳しいことは、県のサイトをご覧ください。
http://www.pref.toyama.jp/cms_sec/1205/kj00022788.html
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新型コロナウイルス感染対策・免疫力アップ
(編集部)
新型コロナウイルスのワクチン開発が進み、一部の国では接種が始まりました。しかし、ワクチンの有効性がどのくらい維持されるか、重大な副反応はないか、供給体制はどうなるかなど不明な点も多く、日本を含め世界中が日常に戻るのには、まだまだ時間がかかりそうです。そこで、テレビのNHKスペシャル「新型コロナ全論文解説」(11/8放送)、「2021年すてきな奥さん」、そのほか最近の報道を参考にして、あらためて感染予防に必要なことをお伝えしたいと思います。
尚、万一感染して自宅療養をしなければならなくなったときの注意点については、「かけはし22号」(2020年5月号)に掲載しましたので、そちらも参考にしてください。
感染対策
冬は、夏以上に新型コロナウイルスの感染に警戒が必要です。湿度が下がることにより、鼻や喉の粘膜の、異物を排除する機能が衰えます。また、飛沫の水分が奪われて軽くなり、遠くまで飛ぶようになります。さらに、寒い冬は血管が収縮しがちで、新型コロナウイルス感染による血栓症リスクの増大が心配されます。
三密を避ける、マスクを付ける、手を洗う、消毒する、などは既に実践されているかと思いますが、加えて冬に気をつけなければならないのは「換気」と「湿度」です。
▽換気
寒くなってくると、暖房をつけて窓を閉めたまま生活しがちです。換気が不十分だと、ウイルスが室内を漂う時間が長くなり、感染する危険が増してしまいます。
換気扇を使って常時換気する、部屋を暖めてから定期的に(1時間に5分を2回など)窓を開けて換気をする、窓を開けるときは部屋の対角線にある2カ所を開けて大きな空気の流れを作る、窓がひとつしかないときは扇風機を窓に向けて使い空気を外に出すなど、工夫してください。
なお、換気の際は室温が下がりすぎないようにしてください。国の新型コロナウイルス感染症対策室は「18℃以上」を目安としています。
▽湿度
新型コロナウイルスについては、理化学研究所のスーパーコンピュータ「富岳(ふがく)」を用いた様々な解析が行われています。そのひとつが、マスクをせずに咳をしたとき、1.8メートル離れて向かい合う人に到達する飛沫の量と湿度との関係です。解析の結果、湿度30%の場合は、湿度が60%や90%の場合に比べて、2倍以上の量の飛沫が到達することがわかりました。感染症対策室は「40%以上」を目安に保湿してほしいとしています。ただし、湿度が60%を超えるとカビが繁殖しやすくなりますので、ご注意ください。
北陸の冬はもともと湿度が高いと言われますが、エアコン暖房を使うと室内の湿度は下がります。できれば湿度計を室内に置いて、それを見ながら、加湿器を使ったほうが良いかどうかなどを判断したほうが良いでしょう。エアコンの空気の通り道に洗濯物を干すことによっても、湿度は上がります。
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免疫力アップ5つのポイント
ウイルスから身を守るためには、飛沫感染と接触感染に注意するほか、自らの免疫力を高めることも大切です。
1.必要な栄養をバランスよくとる
バランスのよい食生活を続けましょう。多くの食材を食べることで栄養状態を良好に保つことができ、免疫力が高まります。具体的には、米などの主食以外に、魚、油脂類、肉、乳製品、野菜、海藻類、いも類、卵、大豆、果物の10種類の食品群を目標に食べましょう。少量でもよいのです。たとえば、海藻類ならのり1枚、大豆製品ならきな粉大さじ1杯でもよいのです。
2.1日30分は体を動かし、体力を維持
「かかとの上げ下げ」や「速歩き」などがおすすめです。足腰の強化は健康のかなめです。
3.体内リズムを整えて規則正しく
日中は太陽の光を浴び、活動的な時間を過ごしましょう。できるだけ同じ時間帯に食事をすることが望まれます。夜は、あまり遅くまでテレビやスマホの光を浴びないようにしてください。睡眠のリズムが乱れます。
4.唾液を増やす・口の中を清潔に''''
唾液には多くの免疫抗体が存在しています。唾液量が少なくなると、病気にかかりやすくなります。鼻呼吸をする、良くかむ、などを心がけて、唾液の分泌量が低下するのを避けましょう。
また、口の中のウイルスや細菌が唾液を汚すと、鼻づまりなどの炎症を起こします。口の中を清潔にしておくことも重要です。
5.リラックスをしてストレスをためない
リラックスできる時間を作ることは、精神的にも肉体的にも大切です。
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活動報告
富山県の来年度予算に対する要望
10月13日、九曜会長が富山県障害福祉課と富山県警察本部交通規制課を訪ね、▽県の責任で盲ろう者の実態調査を行い、将来的には盲ろう者支援センター設置を検討すること、▽盲ろう者も使える触知式信号機補助装置を設置することを求めました。
同じ要望を11月27日、富山障連協(富山県障害者(児)団体連絡協議会)の県交渉に事務局の井筒屋が参加して行いました。
JR西の駅無人化に対する申し入れ
8月、JR西日本は「2030年度までに富山県内9駅を無人化する」と発表しました。これに対して12月8日、富山障連協がJR西と懇談を行いました。
九曜会長も参加し、JR西に対し次のように要望しました。「私自身、20年あまり前にホームから転落した経験がある。幸い、大きな怪我もなく済んだが、昨今ホームから転落して亡くなる視覚障害者のニュースが報道されており、駅の無人化には危機感を感じている。どうしても無人化が避けられないのであれば、障害当事者と十分な話し合いを行い、十分な安全対策を講じた上で、慎重に進めていただきたい」。
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