盲ろう者とは目と耳両方に障害のある人のことをいいます。
富山盲ろう者友の会では、盲ろう者とその支援者の交流・支援活動を行っています。

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かけはし31

本文開始

かけはし31

(2022年11月発行)

目次

会長挨拶

九曜 弘次郎(全盲難聴)

九曜会長

新型コロナウイルスの感染は、相変わらず拡大したり縮小したりを繰り返しており、先が見えない状況が続いています。
さて当会では、「通訳・介助員派遣制度があることを盲ろう者に直接伝え、希望者には訪問相談を実施してほしい」と、毎年、県に要望を出しています。盲ろう者は自ら情報を得ることが難しく、家の中で孤立している人が少なくないと思われるからです。盲ろう者の社会参加を進める為には、本人に直接会って生活実態を聞き、派遣制度について説明する必要があります。
しかし、この要望はなかなか実現しません。そこで、友の会では県議会議員さんへの働きかけを始めました。盲ろうという障害の特性や訪問相談の必要性を知っていただくことが目的です。9月23日には日本共産党の議員の方に、また10月18日には自由民主党の政務調査会福祉環境部会の方にお話をさせていただきました。友の会では、すべての会派に案内を手渡して、懇談の機会を設けていただけるよう働きかけを行っております。もしお話を聞いていただけそうな方をご存じの方は、是非情報をお寄せいただければ幸いです。

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高齢ろう者の生活と支援

講師の金川さん

編集部員が、7月24日に実施された盲ろう者向け通訳・介助員養成講習会を聴講しました。この日のテーマは「高齢ろう者の生活と支援」。講師は、富山市内でデイサービス「大きな手小さな手」を運営するNPO法人の理事長、金川 宏美(かながわ ひろみ)さんです。講演は高齢ろう者に関するお話が中心でしたが、高齢盲ろう者の支援を考える上で大切なポイントがたくさんありました。以下は、そのリポートです。
尚、講習会を主催する富山県聴覚障害者協会が、講演内容を「かけはし」に掲載することを許可してくださったことに、感謝を申し上げます。

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「大きな手小さな手」とは

(編集部)
「大きな手小さな手」は2014年、富山市でオープンしました。定員は11人。最大の特徴は「富山県で唯一、利用者が自由に手話で会話ができる介護施設」ということです。職員は全員手話ができ、ろう者の職員もいます。富山型デイサービスということで、子どもから高齢者まで年齢にかかわらず受け入れています。

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聞こえないことによる孤立

(編集部)
金川さんは、なぜ、手話で会話ができる施設を作ろうと思ったのでしょうか。ろう者の第一言語が手話であり、高齢ろう者の中には日本語が苦手な人も多い、というだけではありません。

金川
聞こえない障害は、聞こえない不便さだけではありません。聞こえない、話せない人は、家庭でも地域でも孤立して、つらく寂しい人生だったのです。
家庭の中では自分だけが聞こえない。テレビを見てみんなが笑っている。お母さんに「なに?」と聞いても「あとで教えてあげっちゃ」。お母さんはテレビがおもしろいから説明してくれない。自分だけがわからない。
ろう学校の授業では、先生は手話を使わず、口を大きくぱくぱく。言っていることがわからない。小学校6年間で学ぶ学習量の10分の1も身につかなかったかもしれない。知らないこと、わからないことだらけのなかで、職場の上司や同僚から、失敗を押しつけられたり、やる気がないと言われたりする。誤解される。
ろう者が生きてきた背景を周りの人が知らないから、常識がないように見えてしまう。そうやって社会から面倒くさがられたり排除されてきたりしたのです。

(編集部)
今のろう学校では手話の導入も少しずつ進み、日本語をしっかり身につけるろう者も増えています。仕事の幅も広がっています。しかし、高齢ろう者は今とはまったく異なる環境で生きてきたのです。
高齢ろう者の中には突飛な行動をする人もいますが、そのひとつひとつに理由があると金川さんは言います(事例はプライバシー保護のため脚色してあるそうです)。

金川
たとえば、こんな一人暮らしのろう者がいました。家の中に人を入れない。窓も開けないのでかび臭い。冷蔵庫の中で食品がいっぱい腐っている。汚れた服を繰り返し着ている。なぜだと思いますか?
耳が聞こえないと、気配を察することができないんですね。それで身を守るために全部鍵をかける。食べ物を捨てないのは、食べ物が無い状態が心配だから。もったいないというのもある。おそらく「お金、たくさんつかわれんなよ」と言われて育ったのでしょう。親御さんたちは、障害の子どもひとり残して自分たちが逝った後、その子が暮らしていけるだけのすべをちゃんと教えておられたわけですね。
で、汚れたものは洗濯すればいいんだけど、洗濯しないのは何でかって言ったらね。洗濯機が壊れとったから、なんですよ。それまでは自分で洗濯しておられた。洗濯機を要らなくなったお家から調達してきてね、シール貼ってね、1番、2番とボタンを自分で押して洗濯できるようになった。
ふだんから支援する人がいれば良かったのですが、本人は人の手を借りたくない、コミュニケーションも取れないのに面倒、ということなんですね。親から「人に迷惑かけるな」と言われて育ったからかもしれません。

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安心して語り合える場を

(編集部)
孤立や誤解の中で生きてきた高齢ろう者に安心して語り合える場を提供したい、と金川さんは考えました。

金川
私たちのデイサービスは、聞こえない人たちが同じ気持ちを共感できる場なんです。仲間と一緒に過ごしたい。聞こえないっていうことだけじゃなくて、聞こえないことで苦しんだよっていうことをね、理解してくれる人たちや、認めてくれる人たちがいる場。よく頑張ったね、って言ってくれる。仲間と一緒にいたい。年をとってもずっと一緒にいたい。家で暮らせなくなっても、聞こえる人しかおらん施設に入るのは嫌だ、死ぬまで手話で話したい、っていうそういう人がいるんです。

(編集部)
ろう者が手話の通じないふつうの特別養護老人ホームに入ったらどうなるのでしょう。金川さんはきびしい現実を語りました。

金川
特養などの施設に入ると3ヶ月ほどで指文字を忘れます。半年ほどで、会話が難しくなっていきます。認知症の進行が速いです。手話を使わないと、思考することがありません。脳はだんだん退化していきます。話すことがないので手も動かさない。意欲が低下し寝たきりの状態になっていきます。

(編集部)
高齢ろう者にとって手話が通じる環境がいかに重要かが浮き彫りになるお話でした。

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全国には

(編集部)
全国的には、手話が通じる特別養護老人ホームなどの入所施設があります。全国高齢聴覚障害者福祉施設協議会が作ったリーフレット
https://www.jfd.or.jp/info/2010/teq/korei-shisetsu/20111004-korei-shisetsu.pdf?20191128
を見ると、2011年時点で全国10カ所に、手話が通じる特別養護老人ホームや老人ホームが作られています。金川さんの話では、京都にある特養「いこいの村 梅の木寮」には、盲ろう者も暮らしている、とのことでした。最新情報は未確認ですが、こうした施設は、残念ながら東海北陸地方にはないようです。

高齢盲ろう者の支援

(編集部)
ろうベースの高齢盲ろう者について言えば、接近手話や触手話が通じる環境が重要だということになります。
ただし、盲ろう者への支援はコミュニケーションできる環境なら大丈夫というわけではありません。

金川
手話で話すのは弱視ろうの人にとっても楽しいことです。でも、ろうの人の手話は速い。弱視の人にとっては、楽しいけれど目が疲れる。周囲のろう者もそれを理解して、最初は遅い手話で話してくれるが、だんだん速くなってしまう。「あんたたち見えている人にはわからんだろう」という気持ちにつながってしまう。
 また、手話は空間を大きく使うので、見える範囲が狭い人は見えない部分が出てきます。手話が部分的にしか読み取れないから話に食い違いが起きる。誤解やトラブルが生まれやすい。「悪口を言われとる」と思い込んだりします。
職員が気を配るのは、利用者同士のやりとりだけではありません。料理によって、見やすいようにお皿の色を変えるとか、安全に移動できるよう弱視の方が移動するときの動線を確保するとか、本人が使う物の位置を変えないとか、折り紙をするときに大きな紙と黒い作業台を用意するとか。いろいろな工夫が必要になります。
私達は盲ろう者支援のプロではありません。デイサービスとしては、いろいろな人を受け入れたいと思いますが、視覚障害の方が利用される際の不自由さについては、特化した支援が必要だと思っています。

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盲ろう者のための施設

(編集部)
2017年に大阪に、盲ろう者のためのグループホームができました。NPO 法人「ヘレンケラー自立支援センターすまいる」が運営する「すまいるレジデンス」(愛称ミッキーハウス)
http://db-smile.jp/grouphome.html
です。定員は10人。触手話や指点字で会話しながら暮らすことができます。
年齢を問わず「自活可能」であることが入居条件です。「自活とは身の回りのことを自分自身の判断でできることを言います。ホームヘルパー等を利用することも可能です」ということです。
 「日本初」の設立でしたが、その後、類似の施設が誕生したという報道を見たことがないので、いまでも「日本唯一」かもしれません。

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支援者に期待すること

(編集部)
最後に、金川さんは盲ろう者を支援する人へのメッセージを話されました。

金川

○共感する・寄り添う
段々視力が落ちてくる、できなくなることも増えてくる。動くのも面倒、危ないって思ってるから行動にも段々制限が出てきます。どんどんどんどん家にこもるようになるかもしれません。
自分の人生に対する不安はとても強いと思います。何よりもそれを聞いてあげることですね。よく言う「あんただけじゃないよ」と言うのは駄目ですね。「あなたにしかわからん辛さ、寂しさはわかってあげれんけど、何とかしてあげたい」っていう気持ち。まず十分にお話を聞いてあげることですね。共感する姿勢、寄り添う姿勢が大事です。
○地域みんなで
高齢ろう者も聞こえる高齢者と同じように地域に住んでいます。違いは、近所からの援助を受けられないことです。関わりを持ってこなかったから。暮らしや命に危険が及ぶ状態になっていると近所の人が誰もきづかぬまま、夫婦ふたりで家の中で死んでいても、おかしくはないのです。
私たちだけが抱えない。近所の人、民生委員、宅配弁当、ホームヘルパー、医療、財産管理、行政・・・みんながかかわっていく。なにかあるときは、いちばん近くにいる人がいちばん助けになるのです。手話ができない、で終わってしまうのではなく、ここにろうの老夫婦がいるんです、こういう状況なんです、と伝えていく。こういう時にはこうしてください、と協力を求めていくことが大事です。
○派遣されたら
手話通訳も盲ろう者向け通訳・介助員も同じで、派遣された時間しか、相手とかかわりません。それ以外はかかわらない。自分の手話通訳活動で、この後この人はどうなるの?誰がこの人を見てくれるの?という思いの中でデイサービスを開所しました。
みなさんも派遣されているとき、もしも「この後この人はどうなるの」と思ったときは、一人で抱えずコーディネイターに戻して、あらゆる方向から支援する体制を作れるようにしてください。
大事なことは障害特性を理解した支援です。そして、本人がどうしたいか。本人が希望する人生を作ってあげるお手伝いが大切なのだと思っています。

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高齢視覚障害の生活と支援

(編集部)
金川さんは、ある視覚障害者と話したとき、「晴眼者のデイサービスがおもしろくない」と言われたそうです。今回の講演は、ろうベースの盲ろう者の生活や支援を考える上でたいへん参考になるお話でしたが、盲ベースの盲ろう者について考えるために「高齢視覚障害者の生活と支援」についても、いつか特集してみたいと考えています。

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活動報告 富山県美術館を楽しもう

7月17日(日)、「富山県美術館のコレクション展を楽しもう」という企画を実施しました。視覚障害のある人も含めて会員15人が参加、3つのグループに分かれて、それぞれ学芸員さんの案内で、美術館が所蔵する作品を見て回りました。

最初に学芸員さんが、「この絵は何が描いてあるか、どんな印象か、自由に発言してください」と問いかけ、みんなが思ったこと感じたことを発言します(対話型鑑賞)。全盲や弱視の会員は、その会話を聞きながら、どんな絵なのか想像を膨らませます。ひとつの作品に15分くらいかけて、じっくり見ていきました。

彫刻を見る会員

「衣装はなに?スカート?」(弱視会員)
「超ミニではないが、結構短い。私ははけない(笑)」
「表情は暗めかな」
「この少女は、待っても人が来ないんじゃないかな。ずっと待ってるけど」。
「どこでそれを感じましたか?」(学芸員)
「少しうつむいているから。ちょっと寂しそうだし」
「疲れている感じもするね」
「彫刻というのは、昔は理想像だったのですね。馬に乗った素敵な将軍とか。きれいな女の人とか。シーガルは、誰でもが目にするような現実を彫刻にした。それでものすごく評価された作家なんです」(学芸員)。

絵を見る会員

「テーブルの上に裸の男がお尻をこちらに向けて横たわっている。へんな感じ。あまり見たくはない絵だなあ」
「生きているの?」(全盲会員)
「生きていると思うんだけれど、体がへんに、ねじれている」。
「ポーズが不自然。テーブルの脚かな?牛の脚みたいなものがテーブルから生えているような」
「想像もできないなあ」(全盲会員)
「フランシス・ベーコンという人は、たくさん人物を描いています。体がぐにゅっと曲がっていたり、すごい速さで動いたり、ぶれたような形をしていたり。絵にはテーマがあって、これは闘牛場をテーマにした作品ではないかと言われているんです」(学芸員)。

絵を見る会員

「全体が宇宙の青。まんなかにおおきな球。5層くらいに輪が広がる。お釈迦様とか五重塔がいっぱいちりばめられています」。
「大きな山が宇宙に浮かんでいるような感じ」
「見ていると気持ちがすうっと落ち着いてきますねえ」
「前田常作という富山県出身の人が描きました。立山連峰も高岡の大仏さまも、ここに描かれているんですよ。仏教の曼荼羅のスタイルではなくて、オリジナル曼荼羅なんですね」(学芸員)。
「想像すると壮大な感じの絵ですね」(全盲会員)

視覚障害のある会員にとっては、想像が膨らむ絵と、まったく想像できない絵があったようです。課題も残りましたが、視覚障害のある人が美術を楽しむという、あらたなチャレンジの第一歩となりました。

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通訳・介助員養成講習会終了

2021年度、2022年度の2年間にわたって行われた「盲ろう者向け通訳・介助員養成講習会」が、9月25日、無事終了いたしました。6人の方が修了書を受け取られました。

修了証を手にする人たち

聴覚障害者協会が実施する養成講習会は、もともと単年度で、講習会修了後1年間を実習期間としていました。が、4年前にカリキュラムを見直して講習を2年間としてから、実習期間は設けていないそうです。今後すぐに、通訳・介助に入る人も出てくると思います。ご活躍を期待します。頑張ってください!
来年度の養成講習会は、2023年春頃、募集を開始するそうです。

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